剱岳(2,999m)八ツ峰
2018年6月23~25日
自主山行
CL・渉外 のりさん、SL・装備L ひでちょ、記録・装備S、やんやん、食当 まいこ
<アプローチ>
6月22日 名古屋発、23:20 富山駅にてまいこちゃんピックアップして立山ケーブル駅駐車場で仮眠
翌23日7:00発(始発)ケーブル⇒8:20室堂着
<山行>
6月23日 曇りのち晴れ
室堂8:30→8:51みくりが池8:51→8:55みくりが池温泉8:55→9:12 雷鳥荘9:13→9:18雷鳥沢ヒュッテ9:19→9:26浄土橋9:33→11:26剣御前小屋11:52→12:17剣沢キャンプ場12:22→12:26剣澤小屋12:28→13:53長次郎谷出合 BC
6月24日
長次郎谷出合BC 3:36→4:20Ⅰ・Ⅱ峰取付き4:30→6:50Ⅰ・Ⅱのコル6:50→6:55Ⅱ峰7:00→7:30Ⅲ峰7:30→8:40Ⅳ峰8:50→9:45Ⅴ峰9:55→10:45Ⅴ・Ⅵのコル11:00→12:15Ⅵ峰12:30⇒13:30Ⅶ峰13:35⇒13:50池ノ谷乗越13:50⇒14:00Ⅷ峰14:10⇒14:25八ツ峰の頭14:40→16:41長次郎の頭16:57→17:08長次郎のコル17:15⇒17:55熊の岩18:07→19:00長次郎谷出合 BC
6月25日
長次郎谷出合 BC9:10 →9:30平蔵谷出合9:30⇒10:50剣澤小屋11:10→12:50剣御前小屋13:20→15:40室堂
6月22日
アプローチでは東海北陸道が区間平日夜間通行止めの影響で、北陸道周りで富山駅に向かうこととなり、横浜から電車で来たまいこちゃんとなんとか合流、立山ケーブル駅前駐車場にテントを張り仮眠。
6月23日
始発のケーブル・高原バスで室堂着。途中称名滝・雪の大壁もしっかり見えました。
空は曇天、でも明日からの好天に期待して、多殿の湧水で水補給し、いざしゅっぱ-つ!みくりが池にはいまだ氷雪があり割れた部分は碧く、南極のよう。行ったことないけど。地獄谷の硫黄の臭いと黄色い雪はいつもの光景、地獄といえばこの階段地獄に2日後の苦悩を予告するまいこちゃん、でも今回は地獄谷展望台で雄の雷鳥とご対面、ちょっと元気もらって、幸先いいんじゃないの!雷鳥沢はテント2張りと梅雨時とはいえ週末、この少なさは天候を読んでのことか。確かに室堂も人少なかった。立山三山、カルデラ地形を見渡しても残雪は多い気がした。
浄土沢は一部流れが見えていたが、ブリッジで渉る。ここから急登の始まり、アイゼン装着し雪夏より西よりの雪渓を直登で詰め上げて別山乗越到着、劔岳がその姿を現した。やはりお劔様のオーラは凄い。背後の白馬三山がサブキャラ、霞んで見える。あまりに見慣れた光景、その印象的な形態の一端をなす視界右端から頂上に連なる鋸のような八ツ峰を今回は目指す。いつもと違う高揚感が抑えられない。
雷鳥沢から500m登ったのに、ここから剣沢を800m下る。そしてまた劔山頂まで厳しいルートを1000m以上登る。そしてこの道を登り返す行程、乗越という響きとここからの景色は確実に向かうものの覚悟を試しているようだ。果たして我々四人にも全く迷いはないと感じた。雪渓を下り剣山荘では豊富に流れていた雪解け水でのどを潤し、剣澤小屋へ。他に人もいないし、のりさん提案でここで4人で劔バックに自撮り?コレがなかなかいい。
さらに近づき大きく見える劔、小屋前の「岩と雪の殿堂」の看板に偽りなし、標高は一の位が「9」に書き換えられていた。
赤旗竿に沿ってひたすら雪渓を下る。剣御前小屋から遭遇したのはソロの男性一人のみ、仙人池に行ってきたとの事、この時期にやるなあ。剣澤内には雪渓が割れている箇所はなかったが端部にはシュルントが成長してきていた。眼前に八ツ峰、左に大きな岩が目印の平蔵谷(シュルント・クレバス数か所目視)、源次郎尾根を見やって、落石やデブリを避けながら長次郎谷が現れたら合流点(出合)で恰好の平坦地を見つけて幕営。すぐそばに雪解けの小滝があり、水場もあるのは嬉しい。しかも他に誰もいない。ただ大きな獣のものと思われる排泄物があった。しかし時間はまだ14時、明日の長い行動に備えるとはいえ、夕食には早すぎる。アルコール類は最小限にし、他は天然冷蔵庫に。真昼間からの酒宴はまた格別、崎陽軒のシウマイとあんかけ焼きそばおいしくいただき、誰かの歌声聞きながら19時就寝。
6月24日
翌二日目、2時起床、3時40分アイゼン装着し懐電行動開始。長次郎谷の雪渓を登る。雪は緩めだが、比較的緩い斜度をアイゼンの爪を効かせながら登る。途中、前日八ツ峰に行った3人組とすれ違い、アイゼン着け外し、ザイルワークなどで時間取られ、岩室着が21時になったとのことから、我々も気を引き締めなおして手際よく行動することをメンバー全員で確認し、この先の取付き状況も聞いて別れた。
行動開始して40分、前方の長次郎の頭にモルゲンロートが見えだしたころ、Ⅰ・Ⅱのコルに向かう右の雪渓に取付く。斜度は増し、ダブルアックスでクライムオン、途中雪が切れた部分は雪渓をトラバースして厚い雪の部分でパスした。
雪がなくなり融雪水が流れる草交じりのルンゼでは水を直飲み、美味しかった。スラブのフェースに乗りあがり(ここでザイル フィックスで。上がりきれば必要なし)暫く進んで再び雪渓、そしてまたスラブで草付きを上がりきってⅠ・Ⅱのコル。
ここで、先のパーティーの話や今後の行動を考慮し、Ⅰ峰は行かないこととした。アイゼン外し、Ⅱ峰へは高低差のあまりない稜線をハイマツ掻き分けてあっという間に到達。まずは一つめの峰を登頂、まだ空はどんよりしていて、振り返ると今回ロスのⅠ峰が悲しくそびえるが、進む方向には目指す劔本峰とⅧ峰への稜線が見たこともない角度で視界に入り、俄然テンションUP。この後早速最初の懸垂下降20m、支点有り。長次郎谷側の岩に沿って下降。のりさん、まいこちゃん、やんやん(私)、ひでちょの隊列、今日はこのあと12回懸垂の予定。設置は主にのりさん、ひでちょでザイル回収はまいこちゃんと私、手際よくいきたいところですが、私は慣れるまで少し時間かかりました。
Ⅲ峰は稜線や長次郎谷側のハイマツをこれまた掻き分けて到着。ここも20m懸垂で稜線上のクラックのある岩伝いに降下。降りた先のコルには雪渓があり、北側はスパッと落ちてる。アイゼン装着。通過後アイゼン外す。
Ⅳ峰へは再びハイマツと岩峰の細かいアップダウン、テンポよく爽快な稜線歩きと懸垂下降が楽しい。雲間の青空も現れ、みんな笑顔が絶えない。日差しも強く、半袖で丁度いい。
Ⅳ峰からは20mの懸垂X2、支点、スリング多数かけてあった。降りた先がシュルント状なので、一旦雪上に上がり、乗越し、三ノ窓尾根側に渉って斜度40度程度の雪渓を10mトラバース。回収したロープを肩に下げていた私はひでちょとつながっており、堕ちたら二人もろとも状態だったので、ダブルアックスで慎重に通過。このあたりには早咲きのチングルマが咲いていて癒された。
ここからⅤ峰へは稜線に雪があり、やはり三ノ窓尾根側は堕ちたらお終いのルートは長次郎谷側が緩勾配であったため、ノーアイゼンで慎重に通過。特徴的なピナクルが見えてくると、通過した先に支点有り、ここもスリング多数。ここはロープを2回懸垂(二回目は左に振られないように)、コルの雪渓まではクライムダウン。シュルントは浅く、跨いで越えれました。コルでのチェックタイム(この先進むか、下りるか)に間に合ったため、この先も進むこととしたが、同時に余裕はないことも分かった。ここで休憩。Ⅴ峰とⅥ峰に切り取られた視界の先には唐松、五竜が、そして見上げるⅥ峰の先は真っ青な空。暑くもない丁度いい気候。まだ先は長いがここからはひでちょは経験済ルート。雪の状態によって全然違うのはここまでの前半戦経験済ののりさんが証明済。
さて後半戦いよいよⅧ峰に向けて集中集中。コルからは雪の割れ目を乗越て、ルンゼを進み、暫くして右のバンドに乗り、トラバース気味に右に回り込みながら登る。この後は草・ハイマツ付きの岩場、階段状のところもあるが。Ⅵ・Ⅶ辺りは岩が逆層気味、ひたすら雪渓を回避しながら、ステップの切りやすい斜面を偽ピークに糠喜びしない様に、我慢して登るとⅥ峰。ここからの景色も素晴らしい、越えてきた峰とこれから行くⅦ峰辺りの針峰群と剣岳、先が見えてきた。遠くには槍ヶ岳も見える。
20mほどの懸垂下降をして、Ⅶ峰へ、見た目ほど厳しきなく楽しいクライミング。気が付くとⅦ峰にいたって感じ。
15mの懸垂を経ていよいよⅧ峰へはあっという間。
ここから八ツ峰の頭へは高度感のあるスリリングなトラバースを経て見た目よりの登りやすいというか楽しい登攀で気が付けば頭。思わず歓声、のりさんもひでさんも積年の課題クリアで達成感が表情に出てました。まいこちゃんも私も初挑戦でここまで来れてお二人に感謝、幸せの瞬間でした。眼下にはⅠ~Ⅶ峰の全貌、正直ほれぼれするほど格好いい。チンネやクレオパトラニードルが見えた。三ノ窓尾根側は少し雲が湧いてきたが、それはそれで絵になる。ただ精神的・体力的に疲れが出てきていた為、池ノ谷乗越の向こうの長次郎の頭を登らなくてはいけないことに、ショックを隠せなかった私とまいこちゃん、でも行くしかない、時間も迫っている。20mの懸垂、落石多く危険だった。乗越まではさらに20mほどはクライムダウン、相変わらず落石の巣、慎重に乗越へ。
乗越から長次郎谷右股を除いてもクラックがあり、傾斜きつく下るのは厳しそう。ここから長次郎の頭へは中央のルンゼを少し上がり、右にトラバース、いずれも落石注意、落としたら後続直撃です。北方稜線と合流し、右側を大きくトラバースして頭へ。頭からはひたすら頂稜を詰める。古いピッケルがあるピークへは行かず三ノ窓尾根側をトラバースしたかと思えば、ナイフリッジ、その先のリッジ上の岩を抱いて巻く高度感ある箇所やら、厳しいルンゼなど、実は一番の核心部ではないかと思ってしまった。このルンゼをまいこちゃんだけは三ノ窓尾根側のガレ場をトラバースしたが、その際に人大の黒いカバーに包まれた人工物とペットボトルを見たとの事。行動中に伝えると行動に支障ありとの判断で内に秘めたそうだが、後から聞いてぞっとした。調べてみるとどうも有名な残置物らしいが、念のため県警には本人から報告しました。そんなことがあったとはつゆ知らず、少しばてながらも笑顔のまいこちゃん、ここまで13時間を超える行動時間、みんな少なからず疲れているはず、でも笑顔が絶えないのは緊張感が続く中では尚更救われます。さあ今日の登りは終了、長次郎谷の雪渓上部を経攣りながら下降点のコルに到着。この時点で17時、暗くなる前にテント場に着けるか微妙な時間、既に剣岳登頂はあきらめており、あとは長次郎谷左俣を下りきること。アイゼン装着。
幸い右俣に比べ左俣の雪はズタズタにはなっていないが傾斜は左俣と遜色なく急、念のためダブルアックスでクライムダウン。ひたすらこの姿勢で30分程、やっと進行方向を向いて下りる。
熊の岩、テント二張り有り、コースについて会話を交わす。そういえばここまで岩小屋以降誰も会っていない。八ツ峰独占じゃない?なんて贅沢な。感慨浸りながら、この先で右俣と合流し比較的緩い傾斜を思い思いに下る。下降点から二時間、時刻は丁度19時、何とか暗くなる前に我が家についてほっとするが早いか、異変に気付く。フライははだけ、埋めてあった食料は露出、散乱していた。誰かの悪戯か、動物の仕業かと思われたが、よくよく考えると、テントの周りの雪が溶けて、グランドシート下と10cm近い段差ができている、つまり竹ペグが外れ、冷蔵庫も溶けて風で散らばっただけ。ただフライは竹ペグが本体の紐に絡まったおかげで剣沢のごみにならずに済んだのは幸い、テントの中身もあまり重量物少なく、風が強ければ本体ごと飛んでいた可能性もあり、勉強になりました。ビールひと缶に穴が開いていたのは、謎?ですが・・・ただ頭上にはそんなこと構わず月がうっすらと輝いていました。近くの小滝でのりさんが汲んできてくれた水で食当開始、水場があるのはとても助かります。しかもうまい。とにかく無事八ツ峰登攀、祝杯を上げ、これまた無事だった牛肉の入ったカレーの美味しいこと。明日はゆっくり起床と決め込み、15時間半の長く緊張の続く登攀の後にもかかわらず、周りには我々4人のほか誰もいない特別なロケーションもあって気兼ねなく特別な忘れ得ぬ楽しい夜を過ごせました。そういえばみんな体をくねくねさせたり、うえーいとか変な行動してたなあ。サッカーの西野ジャパンを案じながらも幸せな気分で劔の懐に抱かれて眠りについたのは23時過ぎでした。
6月25日
翌三日目は7時30分起床、朝食、撤収を終え、天国のような幕営地を後に、アイゼン装着して剣沢の雪渓を登り返す。出発前クエン酸と重曹で作った炭酸水がうまかった。今日も予想に反して好天、昨日までの達成感か、上りでも気分良く歩を進める。上空を我々の様子を窺うように県警ヘリが巡回、昨日の残置物や不可解な食料発掘事件の絡みで何となく疑心暗鬼、後日調べたら、積雪やルート状況の巡視でこの日の空撮が県警HPにUPされていました。途中から赤旗竿を目印に進み、剣澤小屋前で小休止、振り返り見る劔・八ツ峰、うーん、あそこいったんだよね を何度も繰り返す。剣山荘では水補給としばしのお戯れ、別山乗越まで登るといよいよ劔も見納め、誰もいない剣御前小屋前で念願のビール&ドリンクで乾杯、最高でした。そして何度も何度も言いました、あそこいったんだよねって。剣岳ともお別れして、雷鳥坂を下る。往路と異なり、小屋前を直進して夏道を下る。しばらくして目の前を白いものが横断、すぐそばに着地したのは雷鳥の雄、傍には雌もいた(すぐに雌はハイマツの茂みに入ってしまった)雄はその場にとどまり、至近距離で砂浴び、威嚇しているのかゴロゴロと鳴いている。しばし観察・撮影会、我々を先導して去っていった。往路で会った雷鳥が祝福してくれたのか、一回の山行で二回も会えるのは、私自身目づらしくてついそう思ってしまった。ここまでくると人の姿も出てきて、夏道でも雪渓のトラバースを二か所ツボ足で通過するうちに、面倒なので、往路の雪渓に渉りアイゼン装着して真っ直ぐ下ることにした。ひでちょと私はシリセードも使いながら浄土沢まで下り、テント場を過ぎヒュッテの前でアイゼン外し、最後の階段地獄、高原バスの時間が迫る中、往路の宣言通りまいこちゃん、頑張って何とかギリギリ発車時間にバスターミナル到着。最後までハラハラドキドキでした。
天候にも恵まれ、それぞれの思い・願いを胸に、緊張と体力を要求される中、協力して成し遂げた八ツ峰、笑いの絶えなかったその瞬間瞬間が、八ツ峰からの景色と共に心に焼き付き、またこの地に来るたびに思い起こされる貴重な経験ができました。